「羅針盤はどこかしら?」
太陽は西から登り、冷たい風が南から肌に爪を立てていく。
潮風の香りと波の息吹きを肌で感じ取れてはいるが、チャクラの乱れは方位をも狂わせた。
その白い絹のような肌とは対照的な男の声が響く。
眼鏡の縁を触るその姿は…まるでインテリ気取りの貴族達のよう。でも”この子なら仕方がない”という言葉をオブラートで包み込み、胃中で暴れる酸の海で抹消した。
「白蛇様、お体に障ります」
「確かにそうね。まだ馴染んでいないこの肉体では限界があるわ」
北へ進んでいるのか、南へ進んでいるのかは大した問題ではない。
それよりもギルド資金。これが最初の一歩となるのは目に見えて分かる。
屍鬼封尽で背負わされた代償。大小ともかく、深手を負った。
そして手に入れた新しいこの肉体。草薙剣と同化したこの右腕が疼き、理性までもを浸食する黒い影。
この正体を研究したい……

「ヘカルは見つかったの? 研究材料としてあの子は必須なのよ!」
「はい、探しておりますが、私も海は苦手でして……」
この子も私と同じ蛇と共に生きる者。海上という会場で演目をするのに相応しくない生き物。
マガイモノという名にふさわしく、影の中こそが棲み処。
「白蛇様、ヘカルを見つけました!!」
「倒して捕獲しなさい!!」
ヘカルにしみ込んだ黒い影の正体を調査すれば、この右腕の謎も解けるはず。
そして、余った肉片を商人共に売りさばく。
「白蛇様、問題が……」
「どうしたのかしら?」
「砲弾がありません!」
流れ着いたこの新世界、私達の冒険はまさにこれから……🐍
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